緊張0831
わたしは極度のあがり症だ。それゆえ人の前に出ることを極力避ける人生を送ってきた。
そんな考え方を断ち切りたくて言論部に入ったのだ。そして演壇に上がるために今日まで練習してきたのだ。しかし、わたしは処刑台に上がる心地がした。わたしがいつも活動していた多目的室は実は監獄で、収容されていただけだったのかもしれない。目的は収容だったのか。
処刑ならまだ良かった。そこに居るだけで終わるのだから。わたしはここで自ら刀を抜き腹を切らなければならない。しかし、聴衆を前にわたしの刀は鞘の中でがっちりと固まっている。
そのとき、監獄での内田先生の言葉が蘇ってきた。
緊張したら他人を野菜だと思え。
他人を野菜だと思う。何を言っているのか未だに理解できない。
だがやるしかない。わたしに選択肢は残されていない。囚人たるわたしは看守の言葉を受け入れ、観客を野菜だと思うことに努めた。まずは刀を抜かなければならない。
ナス、カボチャ、ホウレンソウ、ニンジン、レタス…
寒気がした。わたしは極度の野菜嫌いだ。それゆえ野菜を極力避ける人生を送ってきた。
ピーマン…
目が覚めるとわたしの腰に刀は無く、仰向けであった。わたしは侍になることができなかった。
ーーー
わたしは再び刀を握るべく朝日放送に果たし状を送り続け、来たるチャンスを夢見て今週も二十三時過ぎにテレビと向き合うのだ。
ー探偵ナイトスクープの時間がやってまいりました。複雑に入り組んだ現代社会に鋭いメスを入れ、様々な謎や疑問を徹底的に究明する探偵ナイトスクープ、私が局長の西田敏行でございます。